~構造設計者こーじの構造解説blog~

一級建築士の構造解説・過去問解説を行っています。某組織設計事務所9年→構造設計事務所。10年目。

MENU

一級建築士製図試験 記述 ~鉄筋コンクリート造の耐震計算ルートについて~

令和2年度 一級建築士製図試験「高齢者介護施設」の要点の記述において、「耐震計算ルート」についての設問がありました。

 

建築物の構造計画について、建築物の特性に応じて採用した構造種別・耐震計算ルートとそれらを採用するに当たり、耐震性を確保するために考慮したこと

(引用:令和2年度 一級建築士試験「設計製図の試験」問題より)

 

いきなり初見で出題されたことから、この年の受験生はちょっと面食らってしまった方も多かったかもしれません。

ここでは、

 

・鉄筋コンクリート造における耐震計算ルートについて把握
・一級建築士製図試験の建物規模における適切な耐震計算ルートは?
・要点の記述において、どの耐震計算ルートを選択するのが正解か?

 

を理解して、試験本番で問われたとしても対応できるように解説していきます。

 

 

建築物の耐震ルートについては以前の下記の記事を参考にしてください!!

※「耐震ルート」と「構造計算ルート」は、呼び方が違うだけでどちらも同じ意味ですので、気にしないでください。

 

www.young-structure.com

 

イメージとしては、構造計算をする上での計算方法の考え方を示したものが上記記事で、それに関連して各構造種別毎の耐震ルートの計算方法が定められていると思って下さい。

 

鉄筋コンクリート造の耐震ルートについて

 これから、鉄筋コンクリート造の耐震ルートについて見ていきます。鉄筋コンクリート造の耐震ルートは、下記の通りになります。

この耐震ルート表より分かるポイントをこれから述べていきます。

 

f:id:structural-designer-koji:20201025145102p:plain

図 鉄筋コンクリート造の耐震ルート

 

製図試験で出題される規模の建物において、どの耐震ルートが適用できるか?

 鉄筋コンクリート造の場合、建物規模による耐震ルートの制約としては、建物高さが「20m以下」or「20m超え31m以下」or「31m超え60m以下」かの区分となります。

なので、令和2年度の製図試験で出題された規模(建物高さ12m程度)では、ルート1~3、どの耐震ルートでも法的には問題はありません。

では、実際はどの耐震ルートが適切なのかを考えていきますが、その前に各耐震ルートについて解説していきます。

各各耐震ルートについて耐震ルートについて

各耐震ルートについて

【ルート1】

ルート1では、下記の式を満足する必要があります。

 Σ2.5αAw+Σ0.7αAc ≧ZWAi

 

…といきなり式を出されても分からないと思いますが、

左辺のうち、Awは耐震壁の水平断面積、Acは柱及び耐震壁以外の壁(主に袖壁)の断面積となります。簡単に言うと、水平力(地震力)を負担する部材の水平断面積を算出し、αの係数により「建物の水平強度(水平耐力)」を算出しています。

一方、右辺では、Z:地震地域係数、W:建物重量、Ai:地震層せん断力係数の高さ方向の分布となります。学科試験を思い出してもらいたいのですが、これらは地震力を求める際に使う記号です。

つまり、左辺の「建物の強度」が右辺の「地震力」よりも上回ることを確認するための式です。木造の壁量計算と似ているところはあります。

 また、ルート1を対象とする建物は、比較的小規模の建物(例えば小規模な倉庫)で耐震壁や柱が多く計画される建物となります。(強度が高く靱性の小さい「強度型」の建物です。)

 

【ルート2】

ルート2の中には、「ルート2-1」と「ルート2-2」の2種類がありますが、考え方はルート1と同様に、左辺の「建物の強度」が右辺の「地震力」よりも上回ることを確認しています。

 

 ルート2-1:Σ2.5αAw+Σ0.7αAc ≧0.75ZWAi

 ルート2-2:Σ1.8αAw+Σ1.8αAc ≧ZWAi

 

 ルート2で想定される建物は、ルート1と比べると建物の強度が小さいものの靱性に富んだ建物です。その理由として、剛性率、偏芯率、塔上比の規定を満足していることから、ある程度剛性バランスの良い建物と考えられます。

 

ここからはルート2-1とルート2-2の説明なので、飛ばしてしまっても構いません。

ルート2-1は、右辺がルート1と同じ「Σ2.5αAw+Σ0.7αAc」なので、耐震壁や壁の多い剛性の高い建物(強度型の建物)を想定しています。ただ、右辺は、「0.75ZWAi」とルート1の場合よりも0.75倍小さくなっています。これは、先ほど述べたように剛性率、偏芯率、塔上比の規定を満足している為、ある程度剛性バランスが取れており、靱性にも富んだ建物であることから、地震力がルート1よりも0.75倍小さくなっています。

(逆を言うと、ルート1では剛性率、偏芯率などの規定がないため、剛性バランスが悪い場合を想定して地震力を割り増しているともいえます。)

 

一方、ルート2-2では、ルート2-1よりも強度が小さいものの靱性に富んだ建物(靱性型)を想定しています。そのため、右辺が「Σ1.8αAw+Σ1.8αAc」となっており、剛性がや強度が高く靱性が小さい耐震壁の断面積Awにかかる係数が小さく(2.5→1.8)、柱の断面積Acにかかる係数が大きく(0.7→1.8)なります。つまり、強度は低いけれど靱性に富んだラーメン架構に近い架構形式を想定しています。

 

【ルート3】

ルート3では、保有水平耐力計算を行い、大地震時の安全性についても確認を行います。耐震壁の無いラーメン架構の架構形式においては、ルート3で検討することが多いです。

 

どの耐震ルートが一番適切?

結論から言うと、実務上では一般的にルート3で計算することが多いです。ルート1やルート2では、式の中に「Aw」があるように、ある程度耐震壁を計画する必要があります。

製図試験においては、指定が無い限り基本的に耐震壁を計画することは無いと思います。架構形式で、「ラーメン架構として計画」するのであれば、EVや階段等のRC壁については構造スリットを計画した壁とするのが一般的です。その場合、ルート1やルート2では、必要な壁や柱の面積が不足する恐れがあります。

 

※ただし、耐震壁を計画していればルート1やルート2としても構いません。また、ルート1やルート2において、耐震壁の無いラーメン架構で仮に上記の式を満足した状態だとしても、「耐震壁が無いからルート1やルート2は適用できない」審査機関と言われる場合もあります。(これは、審査機関によって考え方が異なるのでグレーですが…)