〔N o.15〕鉄骨構造の設計に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
1.柱にH形断面材を用いる場合、強軸方向をラーメン構造、弱軸方向をブレース構造とすることが多い。
2.大梁にH形断面材を用いる場合、梁端部のフランジに水平ハンチを設けることにより、梁端接合部に作用する応力度を減らすことができる。
3.床面の水平せん断力を伝達するために小梁と水平ブレースによりトラス構造を形成する場合、小梁は、軸力を受ける部材として検討する必要がある。
4.ベースプレートの四周にアンカーボルトを用いた露出柱脚とする場合、曲げモーメントは生じないものとし、軸力及びせん断力に対して柱脚を設計する。
1.柱にH形断面材を用いる場合、強軸方向をラーメン構造、弱軸方向をブレース構造とすることが多い。
答は〇
柱にH形断面材を用いる場合、
強軸方向⇒断面が強い(部材剛性、耐力が大きい)方向であるため、地震力に対して柱部材で抵抗することができる。そのため、柱梁の仕口部を剛接合としたラーメン構造として計画することが多いです。
弱軸方向⇒断面が弱い方向(部材剛性、耐力が小さい)であるため、ラーメン構造としてしまうと変形が大きくなり、耐力も不足してしまいます。そのため、架構の面内にブレースを計画し、地震力に対してブレースが負担するように計画します。
2.大梁にH形断面材を用いる場合、梁端部のフランジに水平ハンチを設けることにより、梁端接合部に作用する応力度を減らすことができる。
答は〇
鉄骨造のラーメン構造の建築物における崩壊形は、梁端部に塑性ヒンジを想定した全体崩壊形として計画することが一般的です。その際に、塑性ヒンジができる梁端部が、応力を受け続けると、破壊してしまいます。
その破壊をなるべく遅らせる方法の一つとして「梁端部のフランジに水平ハンチを設ける」方法があります。梁端接合部にハンチを付けることによりフランジ断面積を増やし、作用する応力度を減らすことができます。
3.床面の水平せん断力を伝達するために小梁と水平ブレースによりトラス構造を形成する場合、小梁は、軸力を受ける部材として検討する必要がある。
答は〇
鉄骨構造の床面が乾式屋根等でRCスラブでない場合、床面を剛床するために、水平ブレースや小梁などを床面に配置して、ブレース構造とする必要があります。そのため、トラスを構成している小梁は、軸力を受ける部材として検討する必要があります。
4.ベースプレートの四周にアンカーボルトを用いた露出柱脚とする場合、曲げモーメントは生じないものとし、軸力及びせん断力に対して柱脚を設計する。
答は×
ベースプレートの四周にアンカーボルトを用いた露出柱脚とする場合、柱脚はアンカーボルトの径、長さ、アンカーボルト間の距離等に応じた剛性(回転剛性)があります。剛性があるということは、柱脚部分にも曲げモーメントが生じるということになります。(曲げモーメントが生じない=柱脚を完全なピン接合)
一般的には、柱頭に作用している曲げモーメントの半分が柱脚にも作用するものとして考えています。
〔N o.16〕鉄骨構造の設計に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
1.骨組の塑性変形能力を確保するために定められている柱及び梁の幅厚比の上限値は、基準強度Fが大きいほど大きくなる。
2.骨組の塑性変形能力を確保するために定められているH形鋼(炭素鋼)の梁の幅厚比の上限値は、フランジよりウェブのほうが大きい。
3.柱の限界細長比は、基準強度Fが大きいほど小さくなる。
4.鋼材の許容圧縮応力度は、材端の支持条件により、異なる値となる。
1.骨組の塑性変形能力を確保するために定められている柱及び梁の幅厚比の上限値は、基準強度Fが大きいほど大きくなる。
答は×
幅厚比は=幅/厚の比であり、小さいほど断面性能が高い値です。(幅厚比が大きい(=薄いペラペラな断面)とすぐに座屈してしまう。)
基準強度F 値が大きいということは、曲げ耐力が大きい部材なので、より大きい力を支えることができます(=大きな力が作用する)。そのため、曲げ耐力を迎える前に座屈してしまうことから、より幅厚比の小さい断面(分厚く曲がりにくい断面)とする必要があります。
2.骨組の塑性変形能力を確保するために定められているH形鋼(炭素鋼)の梁の幅厚比の上限値は、フランジよりウェブのほうが大きい。
答は〇
H形鋼の形状に注目してみます。ウェブは、上下をフランジに挟まれており、拘束された状態です。それに対して、フランジは、ウェブとの接合部分から片持ちで伸びている状態であり、拘束力は小さいです。
そのため、フランジよりもウェブの方が拘束力が大きい為、座屈しにくいと考えることができます。座屈しにくい方が、幅厚比の上限値も大きい値でも座屈しにくいため、フランジよりもウェブの方が幅厚比の制限値は大きくなります。
3.柱の限界細長比は、基準強度Fが大きいほど小さくなる。
答は〇
細長比は=部材の座屈長さLb/断面二次半径iで、数値が大きいほど座屈しやすい数値を示しています。
基準強度F 値が大きい⇒部材の耐力が大きくなる⇒部材の耐力を向かえる前に座屈してしまう⇒細長比を小さくする(座屈しにくくなる、断面性能を上げる)なので、設問は合っています。
4.鋼材の許容圧縮応力度は、材端の支持条件により、異なる値となる。
答は〇
圧縮材の許容圧縮応力度fcは、座屈による耐力を考慮し、
有効細長比 λ=Lk / i (Lk:座屈長さ、i:最小の断面二次半径)が大きくなるほど小さくなります。
材端の支持条件が異なると座屈長さLkが変わってくるので、有効細長比 λ、圧縮材の許容圧縮応力度fcも異なる値となります。
〔N o.17〕鉄骨構造の設計に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
1.トラスの弦材の座屈長さは、精算によらない場合、構面内座屈に対しては節点間距離とし、構面外座屈に対しては横方向に補剛された支点間距離とする。
2.圧縮材の中間支点の横補剛材は、許容応力度設計による場合、圧縮材に作用する圧縮力の2%以上の集中力が加わるものとして設計することができる。
3.ラーメン架構の柱及び梁に、SN400材を用いる代わりに同一断面のSN490材を用いることで、弾性変形を小さくすることができる。
4.ラーメン架構の靱性を高めるために、降伏比の小さい鋼材を用いることは有効である。
1.トラスの弦材の座屈長さは、精算によらない場合、構面内座屈に対しては節点間距離とし、構面外座屈に対しては横方向に補剛された支点間距離とする。
答は〇
トラスの弦材の座屈長さは、精算によらない場合、「構面内座屈」に対しては節点間距離とし、「構面外座屈」に対しては横方向に補剛された支点間距離を持って座屈長さとします。
構面内座屈=構面内に座屈しようとする場合は、束材等で支持されている為、束材等で支持された各節点の節点間距離を座屈長さとします。
構面外座屈=構面外に座屈しようとする場合は、横方向に補剛された部材の支点間距離を座屈長さとします。
つまり、構面内、構面外の各構面において、支持部材(横方向に補剛された部材)が支持している距離を支店間距離とします。
2.圧縮材の中間支点の横補剛材は、許容応力度設計による場合、圧縮材に作用する圧縮力の2%以上の集中力が加わるものとして設計することができる。
答は〇
なんのこっちゃって感じだと思いますが、簡単に言うと、横座屈で横にはらみ出す力が横補剛材に作用します。その力は、圧縮材(=横補剛されている部材)の圧縮力の2%の力としています。
3.ラーメン架構の柱及び梁に、SN400材を用いる代わりに同一断面のSN490材を用いることで、弾性変形を小さくすることができる。
答は×
鉄骨部材の材料強度をSN400材からSN490材へ大きくしても、ヤング係数は変わりません。そのため、材料強度を大きくしても、弾性変形も変わりません。
4.ラーメン架構の靱性を高めるために、降伏比の小さい鋼材を用いることは有効である。
答は〇
降伏比とは、降伏した後、引張強さ(最大引張強度)までの余裕度を表します。
降伏比=降伏比/引張強さ
降伏比の小さい部材を用いた鉄骨部材は、降伏してから引張強さまでの余裕度が大きいです。
降伏比が小さい部材は、塑性変形能力が大きく粘り強いことから、骨組の靭性を高めるためには降伏比の小さい材料を用います。
〔N o.18〕鉄骨構造の高力ボルト接合に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
1.高力ボルト摩擦接合は、部材間の摩擦力で応力を伝達する機構であり、ボルト軸部と部材との間の支圧による応力の伝達を期待するものではない。
2.高力ボルト摩擦接合部においては、一般に、すべり耐力以下の繰返し応力であれば、ボルト張力の低下や摩擦面の状態の変化を考慮する必要はない。
3.高力ボルト摩擦接合部にせん断力と引張力が同時に作用する場合、作用する応力の方向が異なるため、高力ボルト摩擦接合部の許容せん断耐力を低減する必要はない。
4.一つの継手の中に高力ボルト摩擦接合と溶接接合とを併用する場合、先に溶接を行うと溶接熱によって板が曲がり、高力ボルトを締め付けても接合面が密着しないことがあるため、両方の耐力を加算することはできない。
1.高力ボルト摩擦接合は、部材間の摩擦力で応力を伝達する機構であり、ボルト軸部と部材との間の支圧による応力の伝達を期待するものではない。
答は〇
高力ボルト摩擦接合は、高力ボルトによって母材同士を締め付けて接合し、母材同士の摩擦力によって応力を伝達する接合方法です。
2.高力ボルト摩擦接合部においては、一般に、すべり耐力以下の繰返し応力であれば、ボルト張力の低下や摩擦面の状態の変化を考慮する必要はない。
答は〇
高力ボルト摩擦接合部ではすべり耐力以下(=母材が滑り出す時の摩擦耐力)の繰返し応力であれば、ボルト張力の低下や摩擦面の状態の変化を考慮する必要はありません。
3.高力ボルト摩擦接合部にせん断力と引張力が同時に作用する場合、作用する応力の方向が異なるため、高力ボルト摩擦接合部の許容せん断耐力を低減する必要はない。
答は×
高力ボルトの摩擦接合は、母材同士の摩擦接合による接合方法であり、せん断耐力も摩擦接合により定まります。
せん断力と引張力が同時に作用する場合、引張力が作用することにより母材同士を抑える力が低下して摩擦力が小さくなります。摩擦力が小さくなるということは、せん断耐力も小さくなることから、許容せん断耐力も低減する必要があります。
4.一つの継手の中に高力ボルト摩擦接合と溶接接合とを併用する場合、先に溶接を行うと溶接熱によって板が曲がり、高力ボルトを締め付けても接合面が密着しないことがあるため、両方の耐力を加算することはできない。
答は〇
一つの継手の中に高力ボルト摩擦接合と溶接接合とを併用する場合、先に溶接を行うと溶接熱によって板が曲がることから、溶接後に高力ボルトを締め付けても、圧縮力が母材全面へ均等に掛からなくなります。そのため、両方の耐力を加算することはできません。
また、先に高力ボルトを締めつけた後に溶接を行う場合には、高力ボルト接合の締め付けにより、溶接による板の変形拘束するため、両方の許容耐力を加算できます。