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一級建築士学科試験 構造Ⅳ【平成28年度(2016年度)No.15~No.18】【鉄骨造】

 

〔N o.15〕鋼材の溶接に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1.通しダイアフラムに溶接する梁フランジのエンドタブとして鋼製タブを使用した場合は、終局状態において塑性ヒンジを形成しない部位であれば、エンドタブを切断しなくてもよい。

2.通しダイアフラムと梁フランジの突合せ溶接部において、許容値を超える食い違いや仕口部のずれが生じた場合は、適切な補強を行えばよい。

3.パス間温度が規定値以下となるように管理すれば、溶接施工時の低温割れを防止することができる。

4.突合せ溶接部において、母材の種類に応じた適切な溶接材料を用いる場合、溶接部の許容応力度は母材と同じ値を採用することができる。

 

1.通しダイアフラムに溶接する梁フランジのエンドタブとして鋼製タブを使用した場合は、終局状態において塑性ヒンジを形成しない部位であれば、エンドタブを切断しなくてもよい。

<解説>

答は○

まず、エンドタブとは、通しダイアフラムと梁フランジを溶接(一般的には完全溶込み溶接)する場合に、溶接不良が生じやすい溶接始端部と終端部を母材上としないように母材からはみ出した位置に取り付ける補助部材のことです。溶接始端部と終端部をエンドタブ上にすることで、母材内の溶接不良が無いようにするのが目的となります。

エンドタブの種類は、鋼製タブが一般的となります。塑性ヒンジが発生する梁端部に取り付けられるため、スカラップ工法の場合で溶接完了後もエンドタブを取り付けられたままの場合だと、エンドタブ周辺での応力集中等の懸念があることから、切断することが良いとされてきました。

ただ、ノンスカラップ工法の採用や入熱・パス間温度の適切な管理により、エンドタブを切断しない場合でも、十分な塑性変形能力が発揮されることが分かってきたこともあり、終局状態において塑性ヒンジを形成しない部位等であれば、エンドタブを切断しなくてもよいとされています。

 

2.通しダイアフラムと梁フランジの突合せ溶接部において、許容値を超える食い違いや仕口部のずれが生じた場合は、適切な補強を行えばよい。

<解説>

答は○

原則、梁フランジは通しダイアフラムの厚みの内部で溶接しなければならないと定められています。もし、許容値を超える食い違いや仕口部のずれが生じた場合は、規定以上の耐力を有するように適切な補強を行えば良いとされています。

 

3.パス間温度が規定値以下となるように管理すれば、溶接施工時の低温割れを防止することができる。

<解説>

答は×

パス間温度を管理する目的と、低温割れが発生する理由と対応策について説明していきます。

パス間温度とは、次のパスを溶接する直前の溶接パスおよび近傍の母材の温度のことです。直線上に一回溶接されることを1パスと呼び、これを何層にもわたって溶接していきます。1パス溶接し次の溶接を行う時に、直前に行った溶接部およびその近傍の母材の温度が所定の温度以下でなければ、次の溶接を行うことができません。

また、低温割れとは、溶接により高温になった溶接部が溶接完了後に常温へ低下した後に発生する割れのことです。要因としては、加熱冷却により組織が硬化・収縮による高速応力の発生、溶接金属に導入される水素により溶接部の割れが発生します。

低温割れを防止する方法としては、下記の通りとなります。

①低水素系の溶接棒を使用すること(溶接部へ導入される水素を少なくする)

②溶接を行う前に予熱を行う(急熱急冷されると低温割れが発生しやすいため、特に冬場は注意が必要)

 

4.突合せ溶接部において、母材の種類に応じた適切な溶接材料を用いる場合、溶接部の許容応力度は母材と同じ値を採用することができる。

<解説>

答は○

突合せ溶接は、引張力が作用する部位に用いる溶接(引張伝達による溶接方法)となります。そのため、適切な溶接材料を用いれば、溶接部の許容応力度は母材と同じ値(例えば、溶接部の許容引張応力度=母材の許容引張応力度)とすることができます。

 

〔N o.16〕鉄骨構造に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1.高力ボルト接合となる梁の継手部分に、F10Tの代わりにF14T級の超高力ボルト(遅れ破壊の主原因となる水素に対する抵抗力を高めた高力ボルト)を用いることで、ボルト本数を減らし、スプライスプレートを小さくした。

2.高力ボルト摩擦接合の二面せん断の短期許容せん断応力度を、高力ボルトの基準張力To(単位N/mm2)とした。

3.露出形式柱脚において、ベースプレートの変形を抑えるために、ベースプレートの厚さをアンカーボルトの径の1.3倍とした。

4.埋込形式柱脚において、鉄骨柱の応力は、コンクリートに埋め込まれた部分の上部と下部の支圧により、基礎に伝達する設計とした。

 

1.高力ボルト接合となる梁の継手部分に、F10Tの代わりにF14T級の超高力ボルト(遅れ破壊の主原因となる水素に対する抵抗力を高めた高力ボルト)を用いることで、ボルト本数を減らし、スプライスプレートを小さくした。

<解説>

答は○

高力ボルトの種類として、主にF8T、F10T、F14T(超高力ボルト)がありますが、数字が大きいほど強度が大きくなる為、継手部分のボルト本数を少なくすることができます。

高力ボルトにF14Tを用いる場合、遅れ破壊に注意する必要があります。

遅れ破壊とは、一定の張力が加えられている状態で、一定時間が経過すると、外見上はほとんど塑性変形を伴わずに突然脆性的に破壊する現象のことです。原因は、水素脆性といわれており、ボルト外部で発生した水素がボルト内部に侵入することにより、 破壊が発生するといわれています。

その為、遅れ破壊に対する抵抗力を高めた高力ボルトを用いることで、遅れ破壊を防ぐことができます

 

2.高力ボルト摩擦接合の二面せん断の短期許容せん断応力度を、高力ボルトの基準張力To(単位N/mm2)とした。

<解説>

答は×

高力ボルト摩擦接合の一面せん断の長期許容せん断応力度は、0.3To(標準張力Toの0.3倍)となります。

二面せん断の場合、許容せん断応力度が2倍となります。また、短期許容せん断応力度は、長期許容せん断応力度の1.5倍となります。

よって、二面せん断の短期許容せん断応力度は、0.3×2×1.5=0.9Toとなります。

 

3.露出形式柱脚において、ベースプレートの変形を抑えるために、ベースプレートの厚さをアンカーボルトの径の1.3倍とした。

<解説>

答は○

構造計算によらない場合、ベースプレートの厚さは、アンカーボルト径の1.3倍以上にする必要があります。

 

4.埋込形式柱脚において、鉄骨柱の応力は、コンクリートに埋め込まれた部分の上部と下部の支圧により、基礎に伝達する設計とした。

<解説>

答は○

埋込形式柱脚の基礎への伝達機構は、コンクリートに埋め込まれた部分の上部及び下部の支圧により基礎に伝達するとして設計を行います。

 

〔N o.17〕鉄骨構造に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1.H形鋼を用いた梁に均等間隔で横補剛材を設置して保有耐力横補剛とする場合において、梁をSN400B材から同一断面のSN490B材に変更したので、横補剛の数を減らした。

2.両端がピン接合のH形断面圧縮材の許容応力度を、弱軸回りの断面二次半径を用いて計算した。

3.曲げ剛性に余裕のあるラーメン構造の梁において、梁せいを小さくするために、SN400B材の代わりにSN490B材を用いた。

4.H形断面梁の設計において、フランジの局部座屈を生じにくくするため、フランジの幅厚比を小さくした。

 

1.H形鋼を用いた梁に均等間隔で横補剛材を設置して保有耐力横補剛とする場合において、梁をSN400B材から同一断面のSN490B材に変更したので、横補剛の数を減らした。

<解説>

答は×

横補剛材とは、上記で説明した横座屈により横にはらみ出すのを抑える部材のことです。主に大梁に取りつく小梁を横補剛材として兼ねることが多いです。

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横補剛材を必要な分(横座屈しない)だけ取りつけた梁を「保有耐力横補剛」といいます。この場合、梁の保持している曲げ耐力をフルに発揮できるようにして、横補剛が発生しない状態となります。

梁の材料強度をSN400BからSN490Bに変更すると、曲げ耐力がUPします(=大きな力を負担できる)。すなわち、横座屈を抑えるのに必要な横補剛材は増えることになります。よって、設問は誤りとなります。

 

2.両端がピン接合のH形断面圧縮材の許容応力度を、弱軸回りの断面二次半径を用いて計算した。

<解説>

答は○

圧縮材の許容応力度(=圧縮許容応力度)は、座屈のしやすさに応じて基準強度を低減した値となります。

その際、細長比(=座屈長さ/断面二次半径)が大きく関係します。この細長比を求める際の断面2次半径は、弱軸周り(より座屈しやすい方向)の断面二次半径を用います。H形鋼では、強軸と弱軸で剛性や断面係数、断面二次半径の値が異なります。

 

3.曲げ剛性に余裕のあるラーメン構造の梁において、梁せいを小さくするために、SN400B材の代わりにSN490B材を用いた。

<解説>

答は○

梁せいを小さくすると曲げ耐力、曲げ剛性が低下します。

曲げ耐力が小さくなることに対しては、材質をSN400B材からSN490B材へ材料強度を大きく変更しています。

また、曲げ剛性に関しては、設問より、剛性に余裕があるため梁せいを小さくしても問題ないと読み取れます。

 

4.H形断面梁の設計において、フランジの局部座屈を生じにくくするため、フランジの幅厚比を小さくした。

<解説>

答は○

幅厚比は、幅/厚の比であり、小さいほど局部座屈が生じにくく、断面性能が高い値です。(幅厚比が小さい(=分厚い断面)ので、座屈しにくくなる。)

 

〔N o.18〕鉄骨構造における建築物の耐震計算に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1.「ルート1-1」の計算において、標準せん断力係数Coを0.3として地震力の算定を行ったので、水平力を負担する筋かいの端部及び接合部については、保有耐力接合としなかった。

2.「ルート1-2」の計算において、標準せん断力係数Coを0.3として地震力の算定を行ったので、層間変形角及び剛性率の確認を行わなかった。

3.「ルート1-2」の計算において、冷間成形角形鋼管を柱に用いたので、柱梁接合形式及び鋼管の種類に応じ、応力を割増して柱の設計を行った。

4.「ルート2」の計算において、冷間成形角形鋼管を柱に用いたので、建築物の最上階の柱頭部及び1階の柱脚部を除く全ての接合部について、柱の曲げ耐力の和を梁の曲げ耐力の和の1.5倍以上となるように設計を行った。

1.「ルート1-1」の計算において、標準せん断力係数Coを0.3として地震力の算定を行ったので、水平力を負担する筋かいの端部及び接合部については、保有耐力接合としなかった。

<解説>

答は×

ルート1-1において、標準せん断力係数Coを0.3として地震力の算定を行う必要がありますが、水平力を負担する筋かいの端部及び接合部については、保有耐力接合とする必要があります。(筋かいの端部及び接合部の保有耐力接合は、どの計算ルートでも確認が必要です。)

ルート1-1を採用するような建物では、ブレース構造とすることも多いため、筋かいの端部及び接合部の保有耐力接合を確認することで、筋かい材が十分に伸び能力を発揮できるようにします。

 

2.「ルート1-2」の計算において、標準せん断力係数Coを0.3として地震力の算定を行ったので、層間変形角及び剛性率の確認を行わなかった。

<解説>

答は○

ルート1-2では、標準せん断力係数Coを0.3として地震力の算定を行ったので、層間変形角及び剛性率の確認を行わなくても良いです。

これは、標準せん断力係数Co=0.3と大きくすることで、剛性バランス等が多少悪くてもカバーできるという考えです。また、層間変形角1/200以下の確認不要についても、標準せん断力係数Co=0.3とした場合に必要な柱・梁断面を計画することで、ある程度層間変形角や変形能力を担保できるという考えとなります。

 

3.「ルート1-2」の計算において、冷間成形角形鋼管を柱に用いたので、柱梁接合形式及び鋼管の種類に応じ、応力を割増して柱の設計を行った。

<解説>

答は○

ルート1-2では、冷間成形角形鋼管を柱に用いた場合、柱梁接合形式及び鋼管の種類に応じ、応力を割増して柱の設計を行います。(ルート1-1も同様)

これは、ルート1-1及び1-2では、どのような崩壊形になるかの検討を行わないことから、柱が先行して降伏することを前提として、必要となる耐力の割増しを行っています。

 

4.「ルート2」の計算において、冷間成形角形鋼管を柱に用いたので、建築物の最上階の柱頭部及び1階の柱脚部を除く全ての接合部について、柱の曲げ耐力の和を梁の曲げ耐力の和の1.5倍以上となるように設計を行った。

<解説>

答は○

ルート2では、柱頭柱脚部を除いた全ての柱梁耐力比(=柱の曲げ耐力/梁の曲げ耐力)を1.5以上とする必要があります。これは、大地震時の検討を行わない代わりに、大地震時において、梁が先にヒンジが発生し全体崩壊系となるように、柱の耐力を梁の耐力に比べて十分大きくするようにするためです。