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一級建築士学科試験 構造Ⅳ【令和元年度(2019年度)No.22~No.25】【各種構造】 過去問解説

〔No.22〕プレストレストコンクリート構造の設計に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1 .プレキャスト部材を継ぎ合わせて、プレストレスにより圧着接合する場合、圧着部の継目に生じるせん断力は、摩擦抵抗機構のみで伝達するように設計する。

2 .ポストテンション材の緊張材定着部では、コンクリートの支圧破壊を避けるために、耐圧板とコンクリート端面との接触面積が広くなるように設計する。

3 .ポストテンション方式によるプレストレストコンクリート構造の床版において、防錆材により被覆された緊張材を使用する場合、緊張材が配置されたシース内にグラウト材を注入しなくてもよい。

4 .プレストレストコンクリート部材に導入されたプレストレス力は、緊張材のリラクセーション等により、時間の経過とともに増大する。

 

1 .プレキャスト部材を継ぎ合わせて、プレストレスにより圧着接合する場合、圧着部の継目に生じるせん断力は、摩擦抵抗機構のみで伝達するように設計する。

<解説>

答は○

プレキャスト部材を継ぎ合わせて、プレストレスにより圧着接合する場合、圧着部の継目に生じるせん断力は、プレキャスト部材同士の圧着接合部分の摩擦抵抗により伝達します。

 

2 .ポストテンション材の緊張材定着部では、コンクリートの支圧破壊を避けるために、耐圧板とコンクリート端面との接触面積が広くなるように設計する。

<解説>

答は○

ポストテンション材の緊張材定着部は、プレストレス緊張によるコンクリートへの支圧破壊を避けるために、耐圧板とコンクリート端面との接触面積が広くなるようにします。接触面積が広くなると、作用する応力度が小さくなるためです。

 

3 .ポストテンション方式によるプレストレストコンクリート構造の床版において、防錆材により被覆された緊張材を使用する場合、緊張材が配置されたシース内にグラウト材を注入しなくてもよい。

<解説>

答は○

グラウト材を注入する目的の一つに、防錆の役割があります。

ただし、防錆材により被覆された緊張材を使用する場合は、シース内にグラウト材を注入しなくても大丈夫です。この方式を「アンボンドポストテンション方式」と呼びます。

 

4 .プレストレストコンクリート部材に導入されたプレストレス力は、緊張材のリラクセーション等により、時間の経過とともに増大する。

<解説>

答は×

プレストレストコンクリート部材に導入されたプレストレス力は、コンクリートのクリープ現象や緊張材のリラクセーション等により、時間の経過とともに減少します。

 

〔No.23〕各種建築構造に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1 .H形断面の鉄骨梁と鉄筋コンクリートスラブを頭付きスタッドを介して緊結した合成梁では、一般に、上下フランジのいずれも、局部座屈の検討を省略することができる。

2 .H形断面の鉄骨梁と鉄筋コンクリートスラブを接合する頭付きスタッドの設計に用いる水平せん断力は、曲げ終局時に合成梁の各断面に作用する圧縮力及び引張力の関係から計算できる。

3 .地震時の軸力変動により引張力が生じる鉄骨鉄筋コンクリート造の最下階の鉄骨柱脚は、原則として、埋込み形式とする。

4 .鉄骨鉄筋コンクリート造の柱のせん断終局耐力は、鉄骨部分と鉄筋コンクリート部分において、それぞれの「曲げで決まる耐力」と「せん断で決まる耐力」のいずれか小さいほうの耐力を求め、それらの耐力の和とすることができる。

 

1 .H形断面の鉄骨梁と鉄筋コンクリートスラブを頭付きスタッドを介して緊結した合成梁では、一般に、上下フランジのいずれも、局部座屈の検討を省略することができる。

<解説>

答は×

合成梁では、上フランジ側は、床スラブによって局部座屈による変形が拘束されます。そのため、座屈はしないと考えることができます。
しかし、下フランジ側は、床スラブによる拘束がないため、座屈の検討が必要です。

 

2 .H形断面の鉄骨梁と鉄筋コンクリートスラブを接合する頭付きスタッドの設計に用いる水平せん断力は、曲げ終局時に合成梁の各断面に作用する圧縮力及び引張力の関係から計算できる。

<解説>

答は○

頭付きスタッドは、H形断面の鉄骨梁と鉄筋コンクリートスラブを接合するために、鉄骨梁の上フランジに溶接して取りつけます。スタッドは、鉄骨梁に荷重が作用した際に、コンクリートスラブ面と鉄骨梁がずれようとする力に対して、水平せん断力で抵抗します。

この水平せん断力は、曲げ終局時に合成梁の各断面に作用する圧縮力及び引張力の関係から計算することができます。

 

3 .地震時の軸力変動により引張力が生じる鉄骨鉄筋コンクリート造の最下階の鉄骨柱脚は、原則として、埋込み形式とする。

<解説>

答は○

最下階の柱脚部は、上階からの軸力が伝わってくるヶ所であるため、地震時の軸力変動が大きいです。この軸力変動により、鉄骨鉄筋コンクリート造の最下階の鉄骨柱脚に引張力が作用する場合は、埋込み柱脚とすることが原則となります。埋込み柱脚とすることで、鉄骨柱脚部が引っ張られても、鉄骨柱脚上部のコンクリートにより抑えられることから、耐震性が高まります。

 

4 .鉄骨鉄筋コンクリート造の柱のせん断終局耐力は、鉄骨部分と鉄筋コンクリート部分において、それぞれの「曲げで決まる耐力」と「せん断で決まる耐力」のいずれか小さいほうの耐力を求め、それらの耐力の和とすることができる。

<解説>

答は○

鉄骨鉄筋コンクリート造(以下SRC造)では、鉄骨とコンクリートの付着強度は非常に小さいです。そのため、部材に大きなせん断力が繰り返し作用した場合、鉄骨部材と鉄筋コンクリート部材の間の付着が無くなり、ぞれぞれが曲げとせん断に抵抗することになります。

よって、部材のせん断終局耐力は、S部分とRC部分のそれぞれの「曲げで決まる耐力」と「せん断で決まる耐力」のいずれか小さい方の耐力を求めて、それらの耐力を足し合わせた力が終局耐力となります。

 

〔No.24〕免震構造に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1 .免震構造は、一般に、上部構造の水平剛性が大きくなると、上部構造の床応答加速度も大きくなる。

2 .免震構造は、一般に、上部構造の質量及び剛性の偏在等によるねじれ変形が抑制される。

3 .免震構造に用いられる粘性ダンパーは、速度に応じた減衰力を発揮し、免震層の過大な変形を抑制する働きがある。

4 .免震構造に用いられる積層ゴムアイソレーターの水平剛性は、面圧(支持軸力を積層ゴムの水平断面積で除した値)の大きさによって変化する。

 

1 .免震構造は、一般に、上部構造の水平剛性が大きくなると、上部構造の床応答加速度も大きくなる。

<解説>

答は×

免震構造において、上部構造の水平剛性(地震等の水平力に対する剛性)が大きくなると、剛性が小さい免震層との剛性の差が多くなります。剛性の差が大きいほど、免震による効果は大きくなり、上部構造の床応答加速度(≒地震力と思って頂いて構いません)は小さくなります。

 

2 .免震構造は、一般に、上部構造の質量及び剛性の偏在等によるねじれ変形が抑制される。

<解説>

答は○

免震構造は、一般的に、上部構造の重心位置を求めて、これに対して免震層の剛心を一致させることで、建物全体がねじれないように計画します。

 

3 .免震構造に用いられる粘性ダンパーは、速度に応じた減衰力を発揮し、免震層の過大な変形を抑制する働きがある。

<解説>

答は○

免震構造の建物が地震力を受けると、免震層が大きく変形します。これは、免震層に設置してある免震装置の剛性が小さいため、免震層が集中して変形しています。

免震装置には、地盤との縁を切る役割がありますが、変形を抑える効果はありません。そこで、粘性ダンパーを配置することで、免震層の揺れを抑制し、揺れの減衰効果を発揮することができます。

 

4 .免震構造に用いられる積層ゴムアイソレーターの水平剛性は、面圧(支持軸力を積層ゴムの水平断面積で除した値)の大きさによって変化する。

<解説>

答は○

免震構造に用いられる積層ゴムの水平剛性は、面圧(支持軸力を積層ゴムの水平断面積で除した値)の大きさによって変化します。

 

〔No.25〕制振構造に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1 .制振構造に設置するダンパーは、建築物全体の耐力分布や振動性状を踏まえて、適切に配置する。

2 .制振構造に用いられるオイルダンパーは、建築物の動きが比較的小さな段階から制振効果を発揮する。

3 .制振構造に用いられる履歴型ダンパーの耐力は、地震後の建築物の残留変形を抑制するために、柱と梁からなる主架構の耐力よりも大きくする。

4 .鋼材や鉛等の金属製の履歴型ダンパーは、金属が塑性化する際のエネルギー吸収能力を利用するものであり、安定した復元力特性と十分な疲労強度が必要である。

 

1 .制振構造に設置するダンパーは、建築物全体の耐力分布や振動性状を踏まえて、適切に配置する。

<解説>

答は○

制振構造に設置するダンパーは、建築物全体の耐力分布や振動性状を踏まえて、適切に配置します。

ダンパーとは、壁やブレースと柱・梁との間に設置し、地震時の振動エネルギーを吸収する役割があります。

 

2 .制振構造に用いられるオイルダンパーは、建築物の動きが比較的小さな段階から制振効果を発揮する。

<解説>

答は○

オイルダンパーとは、オイル(油脂)の粘性を利用して、地震時の上部構造の揺れを抑制する仕組みです。
オイルダンパーは、比較的小さな揺れの際にも、性能を発揮します。

 

3 .制振構造に用いられる履歴型ダンパーの耐力は、地震後の建築物の残留変形を抑制するために、柱と梁からなる主架構の耐力よりも大きくする。

<解説>

答は×

履歴型ダンパーは、降伏後(塑性時)の変形特性を利用して、地震によるエネルギーを吸収する役割があります。ダンパーの耐力が、柱と梁からなる主架構の耐力よりも大きくすると、ダンパーが降伏する前に主架構が降伏してしまい、ダンパーの役割を発揮することができなくなります。

 

4 .鋼材や鉛等の金属製の履歴型ダンパーは、金属が塑性化する際のエネルギー吸収能力を利用するものであり、安定した復元力特性と十分な疲労強度が必要である。

<解説>

答は○

履歴型ダンパーは、金属が塑性化する際のエネルギー吸収能力を利用するものです。そのために、安定した復元力特性と十分な疲労強度が必要となります。

復元力特性とは、力が作用して変形した後に元に戻ろうとする特性、疲労強度とは、部材に繰り返し応力が作用した時に、基準強度以下で破断するときの強度です。