~構造設計者こーじの構造解説blog~

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一級建築士試験 構造Ⅳ【令和元年度(2019年度)No.11~No.14】【鉄筋コンクリート造】

ここでは、鉄筋コンクリート造の過去問について解説していきます!!

鉄筋コンクリート造の特徴は、コンクリートを使用することで剛性が高く耐震性、耐久性、遮音性に優れています。その一方でコンクリートの弱点である引張力が小さいことから、それを補うために鉄筋を組み合わせています。

また、脆性的な破壊(=靱性が無い破壊)とならないように、様々な規定があります。すなわち、靱性に富んだ破壊:曲げ破壊、脆性的な破壊:せん断破壊、付着割裂破壊ということを頭に入れながら学習するといいです。

ではでは、ここから解説に入っていきます。

 

〔No.11〕鉄筋コンクリート構造の設計に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1 .耐力壁は、一般に、付着割裂破壊が発生しにくいことから、付着割裂破壊の検討を省略した。

2 .柱の付着割裂破壊を防止するために、柱の引張鉄筋比を大きくした。

3 .柱のせん断圧縮破壊を防止するために、コンクリートの設計基準強度を高くすることにより、コンクリートの圧縮強度に対する柱の軸方向応力度の比を小さくした。

4 .柱梁接合部内に、帯筋比が0.3 %以上となるように帯筋を配筋した。

 

1 .耐力壁は、一般に、付着割裂破壊が発生しにくいことから、付着割裂破壊の検討を省略した。
<解説>

答は

これは、受験生の方々は「?」マークがついたかもしれません。

なので、もし本番で分からなければ他の選択肢で判断できればOKです。

この問題でのポイントは、「耐力壁がどういった抵抗をするか」、と「付着割裂破壊がどういった破壊であるか」が大事になっていきます。

まず、「付着割裂破壊」とは異形鉄筋に引張力が作用した際に、異形鉄筋の節(凹凸)が周囲のコンクリートを押し広げることにより異形鉄筋の周囲にひび割れが発生する現象です。

引張力を主として使用している鉄筋は「柱」や「梁」の「主筋」となります。すなわち、「付着割裂破壊」曲げ部材の引張側の主筋において起こる破壊形式となります。

一方、「耐震壁」は、「せん断抵抗」する部材です。そのため、主な破壊形式は「せん断破壊」となります。ということは、「付着割裂破壊」は関係なのではないかと推測することはできると思います。

 

2 .柱の付着割裂破壊を防止するために、柱の引張鉄筋比を大きくした。

<解説>

答は×

この問題でのポイントは、「引張鉄筋比を大きくする」⇒「柱主筋が負担できる引張力が大きくなる」⇒「付着応力が大きくなる」⇒「付着割裂強度」を超えてしまう恐れがある。

なので、設問は逆のことを言っているので×です。

※付着割裂破壊は1.の解説で示した通りです。

 

3 .柱のせん断圧縮破壊を防止するために、コンクリートの設計基準強度を高くすることにより、コンクリートの圧縮強度に対する柱の軸方向応力度の比を小さくした。

<解説>

答は○

柱のせん断圧縮破壊とは、図のように斜めにひび割れが入るせん断破壊のひとつです。柱は、建物の荷重を支持しているので、軸力(圧縮力)が常時作用(長期軸力)しています。そのため、せん断耐力までの余力が長期軸力の分小さくなっています。

コンクリートの設計基準強度を高くすることにより、当然せん断耐力も上がります。「コンクリートの圧縮強度に対する柱の軸方向応力度の比」(=軸力比)は、簡単にいうと「応力/耐力」なので、「応力/耐力」が小さくなる⇒余力が大きくなるということなので、せん断圧縮破壊を防止することができます。

と解説してみたものの、よく分からない人も多いと思うので、

・せん断圧縮破壊はせん断破壊の破壊形式のひとつ

・コンクリート強度を上げる⇒せん断耐力UP

・コンクリートの圧縮強度に対する柱の軸方向応力度の比を小さくする

  ⇒「応力/耐力」が小さくなる⇒余力が大きくなる

が分かっていればOKです。

<ここからは、構造設計者向けの話…>

RC部材のせん断破壊の種類として、「せん断圧縮破壊」と「せん断引張破壊」があります。あまり細かい説明をすると長くなってしまいますが、「せん断圧縮破壊」は、帯筋が十分配筋されている場合で起こる破壊形式、「せん断引張破壊」は、帯筋が少ない場合の破壊形式となります。

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4 .柱梁接合部内に、帯筋比が0.3 %以上となるように帯筋を配筋した。

<解説>

答は○

柱梁接合部のせん断耐力には、帯筋比は関係ありませんが、構造規定として、帯筋比を0.2%以上とすることとなっています。

ちなみに、柱梁接合部に帯筋を入れる理由としては、接合部のコンクリートが帯筋に囲まれて拘束されることにより、柱梁接合部を含む柱梁のラーメン架構の靱性を高める、接合部内に定着される梁主筋の定着がしっかり定着される等の理由があります。

 


 

〔No.12〕鉄筋コンクリート構造の梁に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1 .最小あばら筋比は、曲げひび割れの発生に伴う急激な剛性の低下を防ぐために規定されている。

2 .あばら筋の長期許容応力度は、SD295AからSD345 に変更しても、大きくはならない。

3 .主筋のコンクリートに対する許容付着応力度は、下端筋より上端筋のほうが小さい。

4 .圧縮側の主筋は、長期荷重によるクリープたわみを抑制する効果がある。

 

1 .最小あばら筋比は、曲げひび割れの発生に伴う急激な剛性の低下を防ぐために規定されている。

<解説>

答は×

最小あばら筋比(コンクリートの水平投影面積に対するあばら筋の最小鉄筋量の下限値)を規定している理由としては、せん断ひび割れの発生に伴う急激な剛性の低下を防ぐために規定されています。

あばら筋⇒せん断補強筋⇒せん断力、せん断ひび割れに対して抵抗する鉄筋なので、曲げひび割れとは関係ないと判断できれば、×と判断できると思います。

 

2 .あばら筋の長期許容応力度は、SD295AからSD345 に変更しても、大きくはならない。

<解説>

答は○

これは思い込みでいくと間違える問題です。構造が詳しい人ほど引っかかるかもしれません。(恥ずかしながら自分は最初見たとき間違えました…(笑))

あばら筋(せん断補強筋)の長期許容応力度は、SD295もSD345も同じ195N/mm2です。

ちなみに、鉄筋の引張(圧縮)長期許容応力度はSD295は195N/mm2、SD345は215N/mm2と違うので注意です。

 

3 .主筋のコンクリートに対する許容付着応力度は、下端筋より上端筋のほうが小さい。

<解説>

答は○

理由としては、コンクリートを施工する際の状況をイメージして頂けると分かるのですが、コンクリートは上から下に流れていくので、下端筋の方はコンクリートが十分充填されますが、上端筋の鉄筋下部分に空隙が発生しやすいため、その分付着応力度を小さくしています。

 

4 .圧縮側の主筋は、長期荷重によるクリープたわみを抑制する効果がある。

<解説>

答は○

クリープたわみ(クリープ変形)とは、長時間にわたり荷重が作用し続けると時間と共に変形が増大しする現象です。

長期荷重が梁に作用する場合、上から荷重が作用することから梁の中央部が下に変形します。単純に圧縮側に鉄筋が多くあると変形を抑えるイメージができれば一番いいですが、具体的に説明すると、中央部の断面の応力は、下端が引張力、上端が圧縮力となります。下端に発生する引張力は鉄筋によって負担しますが、上端の圧縮力は鉄筋+コンクリートとなります。鉄筋が多くある方が変形に抵抗する断面積が多くなるので、変形は小さくなります。

(σ=E×ε、σ=P/A、ε=δ/LよりP/A=E×δ/L⇒δ=PL/EAより、A=鉄筋断面積が多くなると、変形δは小さくなるといった感じです。)

 


 

〔No.13〕鉄筋コンクリート構造の配筋に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。ただし、図に記載のない鉄筋は適切に配筋されているものとする。

1 .断面内に打継ぎ部を有する基礎梁において、必要な定着長さが確保されていたので、図- 1 に示すように、基礎梁の側面にあばら筋の重ね継手を設けた。

2 .片側に床スラブが取り付いた梁のあばら筋において、必要な余長が確保されていたので、図-2に示すように、あばら筋の末端の一端を90 度フックとした。

3 .梁下端主筋において、必要な重ね継手長さを確保したうえで、応力集中を避けるために、図-3に示すように、継手位置をずらして配筋した。

4 .長方形孔を有する梁において、あばら筋に加え、図- 4 に示すように、軸方向補強筋を長方形孔の上下に配筋した。

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1 .断面内に打継ぎ部を有する基礎梁において、必要な定着長さが確保されていたので、図- 1 に示すように、基礎梁の側面にあばら筋の重ね継手を設けた。

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<解説>

答は○ 

下図に示すように、2回に分けてコンクリートを打設する場合、あばら筋に重ね継手を設けることにより、1回目と2回目のコンクリートが一体化するようにします。

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2 .片側に床スラブが取り付いた梁のあばら筋において、必要な余長が確保されていたので、図-2に示すように、あばら筋の末端の一端を90 度フックとした。

f:id:structural-designer-koji:20200426101907p:plain

<解説>

答は○ 

あばら筋の一端を90度フックとしてOKな場合は、スラブが取りついている場合です。理由としては、スラブがあることにより、あばら筋のフック部分が外れるのを拘束するためです。

ちなみにスラブが取りつない場合には、両端135度フックにて折り曲げなければいけません。

 

3 .梁下端主筋において、必要な重ね継手長さを確保したうえで、応力集中を避けるために、図-3に示すように、継手位置をずらして配筋した。

f:id:structural-designer-koji:20200426101919p:plain

<解説>

答は×

図の継手方法の場合、下図のように赤線部分のようなひび割れが圧制してしまうのでNGです。

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また、重ね継手のずらし方は下記の通りとするのが正です。

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4 .長方形孔を有する梁において、あばら筋に加え、図- 4 に示すように、軸方向補強筋を長方形孔の上下に配筋した。

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<解説>

答は○ 

長方形孔の上下を2つの梁として見ると、長方形孔上側は下端筋が無く、下側は上端筋が無い状態となります。そのため、主筋の役割として、軸方向補強筋を長方形孔の上下に配筋します。

 


 

〔No.14〕鉄筋コンクリート構造の柱梁接合部に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1 .外柱の柱梁接合部においては、一般に、靱性を確保するために、梁の下端筋は上向きに折り曲げて定着させる。

2 .柱梁接合部の設計用せん断力は、取り付く梁が曲げ降伏する場合、曲げ降伏する梁の引張鉄筋量を増やすと大きくなる。

3 .柱梁接合部の許容せん断力は、柱梁接合部の帯筋量を増やすと大きくなる。

4 .柱梁接合部の許容せん断力は、コンクリートの設計基準強度を高くすると大きくなる。

1 .外柱の柱梁接合部においては、一般に、靱性を確保するために、梁の下端筋は上向きに折り曲げて定着させる。

<解説>

答は○

梁の定着方法としては、基本的に上端筋は下向きに、下端筋は上向きに折り曲げ定着を行います。すなわち、仕口(柱梁接合部)内にしっかりと定着をおこなうことにより、主筋が抜け出さないようにしています。

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2 .柱梁接合部の設計用せん断力は、取り付く梁が曲げ降伏する場合、曲げ降伏する梁の引張鉄筋量を増やすと大きくなる。

<解説>

答は○

この設問を見た瞬間…こんな問題も出すんだ…って感想です。最近の過去問見れてないので分かりませんが、おそらく所見の人は分からないと思います。 解説しますが、なかなか難解なので…分からなくても落ち込まないでください。まず、右から地震力が作用した場合、下図のような状態となります。

f:id:structural-designer-koji:20200426235015p:plain図の赤く囲まれたところが柱梁接合部となります。

今回は代表的なAの十字型柱梁接合部で考えてみます。柱梁接合部の周囲に作用する応力は下図の(a)に示すような応力が発生します。(Tは引張鉄筋の引張力、Csは圧縮鉄筋の圧縮、Ccはコンクリート圧縮力、Qは柱、梁に作用するせん断力を示します。

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(a)に示すような応力により、接合部の内部に生じる応力はどうなっているかというと、実はまだ定説が得られてないが、最も主要な抵抗機構として、下図に示すようなコンクリートの圧縮力が斜めに伝達されるという機構(圧縮ストラット機構)として考えられています。(この機構の事は覚えなくていいです。そういう考えなんだって思って頂ければいいです。)

 

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この圧縮ストラット機構によるコンクリートの斜め圧縮破壊を防ぐために、「接合部に生じる水平せん断力を制限する」という考え方に基づき設計を行っていきます。接合部に生じる水平せん断力(=設計用せん断力)は(b)鉄筋とコンクリートの応力の図におけるQjです。設計用せん断力Qjは、力の釣り合いより、Qj=T1+Cs2+Cc2-Q3となります。左側の梁の力の釣り合いより、
Cs2+Cc2=T2 なので、Qj=T1+T2-Q3よって、問題文の「梁の引張鉄筋量を増やす」ということは、「T1及びT2の力が大きくなる」ので、「柱梁接合部の設計用せん断力は大きく」なります。

引用文献:2020年3月まで名古屋工業大学に在籍しておりました市之瀬研究室HP内の「鉄筋コンクリート構造」サイトより 

 

 

3 .柱梁接合部の許容せん断力は、柱梁接合部の帯筋量を増やすと大きくなる。

<解説>

答は×

既往の研究より、柱梁接合部のせん断耐力には、帯筋は寄与しないという研究結果があり、それに基づいてせん断耐力式が決められています。

(※柱梁接合部ついては、現状、せん断耐力に帯筋比は関係ないとされているが、近年の研究より、帯筋比もせん断耐力に関係するという研究結果もあり、あと数年したら変わるかもしれません…)

 

4 .柱梁接合部の許容せん断力は、コンクリートの設計基準強度を高くすると大きくなる。

<解説>

答は○

柱梁接合部の許容せん断力は、コンクリート強度×接合部の水平断面積×接合部の形状係数によって決まります。

すなわち、接合部の断面積を変えない場合、柱梁接合部の許容せん断力を大きくするにはコンクリート強度を上げるしか方法が無いのです…(RC造の構造設計をする上で結構苦しめられるところです(笑))

<ここからは、構造設計者向けの話…>

逆に言うと、コンクリート強度を変えない場合は、柱の断面積を大きくするか梁幅を大きくすることにより、接合部の水平断面積を大きくすることで許容せん断力を大きくすることができます。

さらに、柱梁接合部の許容せん断力が決まっていて、接合部に作用する水平せん断力を小さくしたい場合は、梁せいを大きくする(T=M/jのjを大きくしてTを小さくする)か、梁主筋が過剰な場合は梁主筋を少なくする方法もあります(設問2と関係しています)。ここまで分かったら構造設計者になれます(笑)