続いては、鉄骨造となります。
鉄骨造で一番大事なのは「座屈」現象をいかにイメージできるかです。大体の規定は座屈に関連する規定(細長比、幅厚比、部材ランク、横補剛、許容曲げ応力度fbの低減 等)です。
〔No.15〕鉄骨構造の設計に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
1 .床面の水平せん断力を伝達するために、小梁と水平ブレースによりトラス構造を形成する場合、小梁は軸方向力も受ける部材として検討する必要がある。
2 .角形鋼管を用いて柱を設計する場合、横座屈を生じるおそれがないので、許容曲げ応力度を許容引張応力度と同じ値とすることができる。
3 .H形鋼を用いた梁に均等間隔で横補剛材を設置して保有耐力横補剛とする場合において、梁を建築構造用圧延鋼材SN400Bから同一断面の建築構造用圧延鋼材SN490Bに変更することにより、横補剛の数を減らすことができる。
4 .圧縮材の中間支点の横補剛材は、許容応力度設計による場合、圧縮材に作用する圧縮力の2 %以上の集中力が加わるものとして設計する。
1 .床面の水平せん断力を伝達するために、小梁と水平ブレースによりトラス構造を形成する場合、小梁は軸方向力も受ける部材として検討する必要がある。
答は○
これは構造設計者以外の方々はよくイメージできないと思います。
今回の設問は、RCスラブが無い折版屋根などの場合で、RCスラブの代わりに小梁と水平ブレースによりトラス構造を形成して、水平せん断力を柱梁のフレームへ伝達させます。(詳しくは、「ここからは構造設計者向けのお話…」を参照してください…)
「小梁は軸方向力も受ける」というのは、力学のトラス構造の問題を思い出して頂けると分かりやすいのですが、縦横の部材:小梁、トラスの斜め部材:ブレースと考えると、小梁にも軸方向力(軸力)が作用することが分かります。
<ここからは構造設計者向けのお話…>
一般的に、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の場合、建物の床はRCスラブを計画すると思います。当然、RCスラブの上に載る荷重を支える役割もありますが、地震時に建物を支持している柱梁の各フレームがバラバラに動かず一体的に変形するように、柱梁の各フレームをRCスラブで繋いでいます。その際に、RCスラブに水平せん断力が作用します(スラブが力の通り道となり、柱梁のフレームへ流れていきます)。
(※RCスラブは、剛性(面内剛性)がとても高いことから、力が作用しても変形しないという仮定=剛床仮定に基づいています。)
2 .角形鋼管を用いて柱を設計する場合、横座屈を生じるおそれがないので、許容曲げ応力度を許容引張応力度と同じ値とすることができる。
答は○
角形鋼管は、□の形状なので、強軸と弱軸方向が同じ断面性能(断面二次モーメント)です。また、□の||部分が、上下の断面(「二」部分)の横座屈を拘束する役割もあるので、横座屈は起きません。つまり、許容曲げ応力度=許容引張応力度とすることが可能です。
<横座屈とは…>
横座屈とは、H形鋼などの強軸と弱軸方向で断面性能(断面二次モーメント)が異なる断面で、上から荷重が作用する場合に梁の許容曲げ応力をむかえる前に梁の横方向(弱軸)方向にはらみ出す発生する現象で座屈のひとつです。
基本的に強軸方向(曲がりにくい)を主として部材を使用するので、例えば、H型鋼では下図のような向きで部材を使用します。上から荷重が作用して強軸方向に曲げられていくと、上フランジ側に圧縮力(下フランジ側に引張力)が発生します。
「座屈」は、圧縮力が作用すると起きる現象なので、力が作用し続けると上フランジ側が横方向(弱軸)方向にはらみ出します。
(強軸⇒曲がりにくい⇒強い断面、弱軸⇒曲がりやすい⇒弱い断面なので、曲がりやすい方に力が働いてしまうとイメージして下さい。)
3 .H形鋼を用いた梁に均等間隔で横補剛材を設置して保有耐力横補剛とする場合において、梁を建築構造用圧延鋼材SN400Bから同一断面の建築構造用圧延鋼材SN490Bに変更することにより、横補剛の数を減らすことができる。
答は×
横補剛材とは、上記で説明した横座屈により横にはらみ出すのを抑える部材のことです。主に大梁に取りつく小梁を横補剛材として兼ねることが多いです。
横補剛材を必要な分だけ取りつけた梁を「保有耐力横補剛」といいます。この場合、梁の保持している曲げ耐力をフルに発揮できるようにして、横補剛が発生しない状態となります。
梁の材料強度をSN400BからSN490Bに変更すると、曲げ耐力がUPします(=大きな力を負担できる)。すなわち、横座屈を抑えるのに必要な横補剛材は増えることになります。
4 .圧縮材の中間支点の横補剛材は、許容応力度設計による場合、圧縮材に作用する圧縮力の2 %以上の集中力が加わるものとして設計する。
答は○
なんのこっちゃって感じだと思いますが、簡単に言うと、横座屈で横にはらみ出す力が横補剛材に作用します。その力は、圧縮材(=横補剛されている部材)の圧縮力の2%の力としています。
〔No.16〕鉄骨構造の設計に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
1 .柱の許容圧縮応力度の算定に用いる限界細長比は、基準強度F 値が大きいほど大きくなる。
2 .骨組の塑性変形能力を確保するために定められている柱及び梁の幅厚比の上限値は、基準強度F 値が大きいほど小さくなる。
3 .骨組の塑性変形能力を確保するために定められているH形鋼(炭素鋼)の梁の幅厚比の上限値は、フランジよりウェブのほうが大きい。
4 .大地震時に、筋かい(炭素鋼)に必要な塑性変形能力を発揮させるために、筋かい端部及び接合部の破断耐力は、筋かい軸部の降伏耐力の1.2 倍以上とする。
1 .柱の許容圧縮応力度の算定に用いる限界細長比は、基準強度F 値が大きいほど大きくなる。
答は×
細長比は=部材の座屈長さLb/断面二次半径iで、数値が大きいほど座屈しやすい数値を示しています。
基準強度F 値が大きい⇒部材の耐力が大きくなる⇒部材の耐力を向かえる前に座屈してしまう⇒細長比を小さくする(座屈しにくくなる、断面性能を上げる)なので、設問は逆となります。
2 .骨組の塑性変形能力を確保するために定められている柱及び梁の幅厚比の上限値は、基準強度F 値が大きいほど小さくなる。
答は○
幅厚比は=幅/厚の比であり、小さいほど断面性能が高い値です。(幅厚比が大きい(=薄いペラペラな断面)とすぐに座屈してしまう。)
基準強度F 値が大きい⇒曲げ耐力が大きい部材なので、より大きい力を支えることができます(=大きな力が作用する)。なので、曲げ耐力を向かえる前に座屈してしまうことから、より幅厚比の小さい断面(分厚く曲がりにくい断面)とする必要があります。
3 .骨組の塑性変形能力を確保するために定められているH形鋼(炭素鋼)の梁の幅厚比の上限値は、フランジよりウェブのほうが大きい。
答は○
H形鋼の形状に注目してみます。ウェブは、上下をフランジに挟まれており、拘束された状態です。それに対して、フランジは、ウェブとの接合部分から片持ちで伸びている状態であり、拘束力は小さいです。
そのため、フランジよりもウェブの方が拘束力が大きい為、座屈しにくいと考えることができます。座屈しにくい方が、幅厚比の上限値も大きい値でも座屈しにくいため、フランジよりもウェブの方が幅厚比の制限値は大きくなります。
4 .大地震時に、筋かい(炭素鋼)に必要な塑性変形能力を発揮させるために、筋かい端部及び接合部の破断耐力は、筋かい軸部の降伏耐力の1.2 倍以上とする。
答は○
筋かい(=ブレース材)は、主として引張材として使用します。引張材の場合、降伏耐力に達した後でも伸び能力がある(=靱性がある)ことから、破断するまではある程度力を負担し続けることができます。
一方、筋かい端部及び接合部の破断耐力⇒その箇所が壊れる時点での力なので、壊れたら力を負担できなくなります。そのため、破断耐力は筋かい軸部(「=筋かい」と思ってOK)の降伏耐力よりも1.2倍以上大きくすることで余力をつけておきます。
〔No.17〕鉄骨構造の接合部に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
1 .梁フランジを通しダイアフラムに突合せ溶接する場合、梁フランジは、通しダイアフラムを構成する鋼板の厚みの内部で溶接しなければならない。
2 .強度の異なる鋼材を突合せ溶接する場合、強度の高いほうの鋼材に対応した溶接材料、溶接条件とすることにより、溶接部の許容応力度は、強度の高いほうの鋼材と同じ許容応力度とすることができる。
3 .高力ボルト摩擦接合において、肌すきが1 mm以内であれば、フィラープレートを挿入せず、そのまま高力ボルトを締め付けてもよい。
4 .高力ボルトの最小縁端距離は、一般に、「手動ガス切断縁の場合」より「自動ガス切断縁の場合」のほうが小さい値である。
1 .梁フランジを通しダイアフラムに突合せ溶接する場合、梁フランジは、通しダイアフラムを構成する鋼板の厚みの内部で溶接しなければならない。
答は○
設問の内容が、どういう図になるのかをイメージできるかが大事です。
下図をイメージできればOKです。
溶接部が通しダイアフラムの外部に出てしまうと、溶接がダイアフラムの上部についてしまいます。溶接というのは、高い熱を与えるので、鋼材の性質を変化させてしまいます。そのため、溶接部が通しダイアフラムの外部に出ないようにする必要があるのです。
<+αの知識>
通しダイアフラムと大梁フランジの関係:通しダイアフラム(及び溶接部)が、大梁のフランジに作用する力を伝えられるようにするため、通しダイアフラム厚>大梁フランジ厚となります。また、溶接をする際の通しダイアフラムと大梁のずれ(食い違い)による施工誤差を考慮して、通しダイアフラムの方を厚くといった理由もあります。
2 .強度の異なる鋼材を突合せ溶接する場合、強度の高いほうの鋼材に対応した溶接材料、溶接条件とすることにより、溶接部の許容応力度は、強度の高いほうの鋼材と同じ許容応力度とすることができる。
答は×
溶接部を強度の高い方の鋼材に対応した溶接材料、溶接条件(=溶接部を強度の高い方の鋼材と同じ強度とする)とすると、溶接部よりも強度の弱い鋼材の方が先に強度に達してしまいます。なので、溶接部を強度は、強度の低い方の鋼材に対応した溶接材料、溶接条件とすることが一般的です。
3 .高力ボルト摩擦接合において、肌すきが1 mm以内であれば、フィラープレートを挿入せず、そのまま高力ボルトを締め付けてもよい。
答は○
施工でも出てくる内容かもしれませんが、肌すきが1 mm以内であれば、高力ボルトの締め付けによりプレート同士の摩擦がしっかりと取れるということで決まっています。
4 .高力ボルトの最小縁端距離は、一般に、「手動ガス切断縁の場合」より「自動ガス切断縁の場合」のほうが小さい値である。
答は○
設問の通りですが、まず、「手動ガス切断」や「自動ガス切断」というのは、高力ボルト接合をする場合の、ボルト孔を開ける方法のことです。(施工でも出る内容です)
イメージとしては、
「手動ガス切断」⇒人間の手で直接孔を開けるので、誤差が大きい。
「自動ガス切断」⇒機械で孔を開けるので、誤差が小さい。
そのため、最小縁端距離も「手動ガス切断縁の場合」より「自動ガス切断縁の場合」の方が小さい値です。
※縁端距離:ボルト孔から板の端部までの距離のことです。
〔No.18〕柱材に板厚6 mm以上の建築構造用冷間ロール成形角形鋼管(BCR)を用い、通しダイアフラム形式とした建築物の耐震計算に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
1 .「ルート1- 1 」において、標準せん断力係数Coを0.2 として地震力の算定を行った。
2 .「ルート1-2 」において、標準せん断力係数Coを0.3 として地震力の算定を行い、柱に生じる力を割増したので、層間変形角及び剛性率の検討を省略した。
3 .「ルート2 」において、最上階の柱頭部及び1 階の柱脚部を除く全ての接合部については、柱の曲げ耐力の和が、柱に取り付く梁の曲げ耐力の和の1.5 倍以上となるように設計した。
4 .「ルート3 」において、局部崩壊メカニズムとなったので、柱の耐力を低減して算定した保有水平耐力が、必要保有水平耐力以上であることを確認した。
1 .「ルート1- 1 」において、標準せん断力係数Coを0.2 として地震力の算定を行った。
答は×
ルート1-1及びルート1-2においては、一次設計(許容応力度計算:中地震時に対する検討)しかしないので、大地震時に対する検討は行いません。そのため、標準せん断力係数Coを0.2→0.3に割り増す(=地震力を割ります)ことで、代わりに安全性の確認をしています。
2 .「ルート1 - 2 」において、標準せん断力係数Coを0.3 として地震力の算定を行い、柱に生じる力を割増したので、層間変形角及び剛性率の検討を省略した。
答は○
これは私も覚えられないので、なかなか難しいと思います。
「ルート1 - 2 」においては、偏芯率は0.15以下を満足する必要がありますが、層間変形角及び剛性率の検討を省略してOKです。
<+αの知識>
何で偏芯率だけは満足しないといけないの?ってなると思います。あくまで私の個人的な考えですが、ルート1-2の場合、スパンが12m以下とルート1-1(6m以下)と比べてスパンが長くなります。そのため、架構計画によっては、スパンが長いフレームとスパンが短いフレームで計画されるので、平面的な剛性バランスが悪い(=偏芯率が大きくなる)場合があるのかなと思います。なので、偏芯率だけ満足する必要があると思います。
3 .「ルート2 」において、最上階の柱頭部及び1 階の柱脚部を除く全ての接合部については、柱の曲げ耐力の和が、柱に取り付く梁の曲げ耐力の和の1.5 倍以上となるように設計した。
答は○
建物の壊れ方は、基本的に梁の曲げ耐力<柱の曲げ耐力とすることで、梁に塑性ヒンジが発生する全体崩壊形が望ましいです。柱に塑性ヒンジが発生すると、建物のの自重を支えているため崩れてしまいます。(阪神大震災のピロティ崩壊をイメージして下さい。あれは部分崩壊形ですが…)
そのため、柱の曲げ耐力の和が、柱に取り付く梁の曲げ耐力の和の1.5 倍以上にして、柱の耐力を大きく取ります。
4 .「ルート3 」において、局部崩壊メカニズムとなったので、柱の耐力を低減して算定した保有水平耐力が、必要保有水平耐力以上であることを確認した。
答は○
「局部崩壊メカニズム」とは、建物全体ではなく一部分で壊れてしまうような建物の壊れ方(崩壊形)のことです。(望ましい壊れ方ではありません。)
その場合、柱の耐力を低減して安全を見ておこうということです。
望ましい壊れ方ではないので、耐力を低減して安全側に見ておくというのが構造設計の基本なので、もし問題文が完全に理解できなくても、そういった判断をすれば解ける場合が多いです。
※基本的には、応力は割り増す・耐力は低減するという考えです。