~構造設計者こーじの構造解説blog~

一級建築士の構造解説・過去問解説を行っています。某組織設計事務所9年→構造設計事務所。10年目。

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南海トラフ地震とは?2030年代にも起きる!?

 


日本では、今まで数多くの大地震を経験してきました。

関東大震災、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震…

地震によって、建物の倒壊や火災、土砂崩れ、津波、ライフラインの寸断、液状化等、様々な被害が発生します。関東大震災や阪神淡路大震災といった都市部で発生した大地震では、火災による被害が大きく、東日本大震災のような海洋型の大地震では、津波による被害が大きいです。

 

そして、今後発生が予測されている大地震もいくつかあります。

今回は、その中でも特に甚大な被害が予測されている「南海トラフ地震」について解説していきます。

 

解説ポイント
  • 南海トラフ地震とはどこで起きる地震なの?
  • 想定外の地震規模である「南海トラフ巨大地震」とは?
  • なぜ南海トラフ地震が危惧されるようになったの?
  • 南海トラフ地域で過去に発生した地震規模は?
  • 南海トラフ地震に対して正しい知識を知ることで正しく恐れよう!!

 

 

南海トラフ地震とは?

南海トラフの地域

南海トラフ地域とは、駿河湾から遠州灘(静岡県から愛知県沖)、熊野灘、紀伊半島の南側の海域及び土佐湾(高知県沖)を経て日向灘沖(宮崎県沖)までの区間のフィリピン海プレートとユーラシアプレートが接する海底の溝状の地形を形成する区域のことを指します。

図1 日本周辺のプレート

 

この南海トラフ地域のプレート境界では、フィリピン海プレート(海側のプレート)がユーラシアプレート(陸側のプレート)の下へ潜り込むことによって起きる「海溝型」の地震が発生します。2011年3月11日に発生した、東日本大震災も同じ海溝型地震です。
また、想定されている地震の規模は、東日本日本大震災と同規模かそれ以上の可能性も、非常に大きな地震であることが分かります。

※地震の発生メカニズムとしては、「内陸型」と「海溝型」の2種類があります。

⇒内陸型地震と海溝型地震の違いのついては、こちらを参照下さい。(後日解説します)

 

南海トラフ地震はどこで発生する地震なの?

先ほど説明したように、南海トラフは、静岡県沖から宮崎県沖まで伸びる海溝です。

つまり、南海トラフ地震は、図1に示すような静岡県~宮崎県までの広範囲で発生が想定されている地震となります。

 

図2 南海トラフ巨大地震の想定範囲

引用文献:気象庁HPより

https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/nteq/assumption.html

 

 

南海トラフ地震の発生確率は?

では、この南海トラフ地震発生確率は、どの程度なのでしょうか。

政府は、2022年1月13日に、マグニチュード8~9級の南海トラフ地震が今後40年以内に発生する確率を90%と発表しています。

実はこの発生確率、以前は「80~90%」とされていました。つまり、「80~90%」から「90%」へ引き上げられていることになります。

一般的に、地震発生確率が「3%以上」であれば、確率が高いとされています。その為、「80~90%」というのは、非常に高い確率であるということが分かります。

 

www.yomiuri.co.jp

 

想定される最大クラスの地震、それが「南海トラフ巨大地震」

南海トラフ地震は、過去に同地域で発生した地震記録から、次に発生する地震を想定していました。後述しますが、東日本大震災の発生に伴い、今まで想定していなかった地震が発生しました。これにより、今までの予測を上回る地震についても想定する必要になりました。

過去の地震記録と言っても、しっかりとした記録が残っているのは、明治以降の約150年程度です。そこで、過去の文献や地質等を調査し、江戸時代以前に発生した大地震も含めた想定とするように修正しました。

その中で、想定される最大クラスの南海トラフ地震が、「南海トラフ巨大地震」と呼ばれています。

 

南海トラフ巨大地震の規模は?

では、南海トラフ巨大地震の規模はどの程度なのでしょうか。

図3に南海トラフ巨大地震の想定と東日本大震災の被害記録を示しています。

南海トラフ巨大地震のマグニチュードはM9.1と、東日本大震災以上の地震の規模であることが分かります。また、震度7の地域も東日本大震災と比べると非常に広い範囲であることが分かります。津波の高さも、場所によっては30m以上と非常に高い津波が押し寄せることが分かります。

 

図3 南海トラフ巨大地震の想定と東日本大震災の記録

 

南海トラフ巨大地震はなぜ危惧されてきたのか?

でもこの南海トラフ巨大地震、いつの間にか言われるようになりましたが、なぜ危惧されるようになってきたのでしょうか。

それは、東日本大震災が起きたからです。東日本大震災では、千年に一度とも言われる巨大地震であり、地震学が発達した明治以降では一度も経験していませんでした。そのため、想定外の高さの津波が東北地方を中心に広範囲で押し寄せて、甚大な被害が発生しました。

また、福島第一原発で発生した原子力災害も、津波によって非常用電源が水に浸かり使用できなくなってしまったのが要因です。(非常用電源を地上に置いていたのが悪いのですが…)

原発については現在も廃炉作業が続いており、今後数十年と続いていきます。現在、脱炭素の流れの中で、再び原子力発電が注目されていますが、地震国である日本における安全性の担保や未だ解決されていない核のゴミの最終処分場等、課題は数多く残ったままとなっています。

少し話が逸れましたが、想定外の地震規模であった東日本大震災を契機に、その他地域における地震の被害予測も見直されることとなりました。

2011年8月に内閣府によって設置された「南海トラフの巨大地震モデル検討会」が開催され、ここで初めて「南海トラフ巨大地震」の概念が出てきました。

 

南海トラフ地域で以前発生した地震の名称

南海トラフ巨大地震の想定地域は、以前は地域毎に「東海」「東南海」「南海」と呼ばれていました。そして、各地域において、昔から一定期間毎に大地震が発生してきました。

 

南海トラフ地域の過去の地震記録

図4に示す過去の地震記録をみると、概ね100~150年毎に大地震が発生していることが分かります。また、時期によっては東海、東南海、南海地震が連動、又は数年以内に続けて発生しているのが分かります。

また、東南海地震は1944年、南海地震は1946年を最後に発生していませんが、東海地震は1854年を最後に発生しておらず、2022年現在で168年が経過しています。そのため、最初は東海地震に対して注目が集まっていました。

図4 南海トラフ地域の過去の地震記録



1970年代には注目されていた東海地震

東海地震の危惧は、1970年代には叫ばれていました。1976年に石橋克彦(現 神戸大学名誉教授)によって「東海地震説」が発表されています。その当時で、最後に東海地震が発生してから既に122年が経過しているからです。

ただ、結果的に2022年現在でも東海地震は発生していません。石橋教授も後に「1976年時点における東海地震の切迫性が過大評価であった」と認めています。

 

過去の東海地震は全て連動型

ただ、一方で過去の東海地震が発生した時は全て東南海又は東南海と南海も連動して地震が発生しています。つまり、次に東海地震が起きる時は、東南海、南海地震も連動して発生する可能性が高いとも言われています。

 

南海トラフ巨大地震は発生するのか?

南海トラフ地域では、100年~150年程度おきに地震が発生し、連動して発生することも分かりました。

南海トラフ地震が発生するのかと聞かれると、間違いなく発生すると思います。2030年代には起きるのではとも言われています。

ただ、次に起こる南海トラフ地震が、「南海トラフ巨大地震」であるとは断言できません。近年の報道等を見ていると、南海トラフ巨大地震だけが独り歩きしている面もあります。

ただ、東海地震が150年以上発生していないこと、300年程度の間隔で連動型の地震であるということを考えると、南海トラフ巨大地震である可能性もゼロではありません。

 

いずれにしても、何も知らずに恐れるのでは無く、正しく知識を得て正しく恐れることが大切です。そうすることにより、正しい対策を取ることができるようになります。