~構造設計者こーじの構造解説blog~

一級建築士の構造解説・過去問解説を行っています。某組織設計事務所9年→構造設計事務所。10年目。

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剛床仮定について

 
 1 剛床仮定とは?
 

 

 

剛床仮定とは名前の通り「床が剛である」という仮定です。一般的な建築物では、床スラブはRCの床となっていることがほとんどです。このRCの床スラブは、面内剛性がとても大きいため、「床が剛である」とみることができます。

では、「床が剛である」場合、建築物はどのように変形するでしょうか。建築物が地震力を受けると、図11-1-1のように各柱梁の架構が地震力を負担します。その際、各架構(フレーム)の梁は床スラブで繋がっています。その為、地震力により建築物が変形するときに、建築物は「一体的に」変形することができます。一般の建築物は、この「剛床仮定」として構造計算を行っていることが多いです。

もしスラブが無かったり面内剛性が小さいと、架構によって変形が異なるため、建物がねじれてしまったり、バラバラに変形してしまい、一部の架構に力が集中してしまいます。例えば、大きな吹抜けや2層以上の大空間が計画されていると、そういった事象が懸念されます。

図1 剛床仮定における架構の変形



 
 2 床スラブの有無による架構の変形
 


剛床仮定は、床スラブと梁が繋がっていることから成立する仮定ですが、床スラブが無い場合はどうなるでしょうか。床スラブがある(剛床仮定が成立する)場合と床スラブが無い(剛床仮定が成立しない)場合における、建築物の架構の変形を図11-1-2に示します。ここで、各フレームに作用するせん断力をQ1,Q2,Q3、各フレームの剛性をK1,K2,K3、建物の水平変形をδ1,δ2,δ3とします。

図2 床スラブの有無による架構の変形

床スラブがある(剛床仮定が成立する)場合は、先ほど説明したように建築物の各架構の変形は同じとなります。力学の時に学んだように、水平力と架構の剛性、変形の間には、
Q=K×δ
の関係があります。

X1通り~X3通りの各架構の剛性が同じ(K1=K2=K3)である(=柱梁の部材が同断面)とすると、各架構で同じ変形(δ1=δ2=δ3)となる為、各架構に作用するせん断力は、
Q1=Q2=Q3
と等しくなります。
床スラブが無い(剛床仮定が成立しない)場合は、X2通りの架構の変形が大きくなります(δ2>δ1)。各架構の剛性が同じ(K1=K2=K3)であることから、X2通りの変形が大きいということは、P2>P1の関係が成り立ちます。実際の構造計算上は剛床解除を行います。
※ここでは、あくまでX2通りフレームの重量がX1・X3通りフレームの重量よりも大きいと仮定しています。また、建物全体のせん断力Q(=Q1+Q2+Q3)は、両者とも同じであると仮定します。

 
 3 スラブの面内せん断力
 


 スラブがある場合とない場合では、建物の変形が異なることが分かりました。ここで、X2フレームのせん断力について注目してみます。
床スラブがある(剛床仮定が成立する)場合では、Q1=Q2=Q3であることから、建物全体の水平力が各フレームへ3等分となり、X2通りのせん断力もQ2=30kNとなります。一方、床スラブが無い(剛床仮定が成立しない)場合では、各フレームのせん断力はQ2=50kNの為、床スラブが無い場合のせん断力Q2(=50kN)は、床スラブがある場合のせん断力Q2(=30kN)よりも大きくなります。
ここで、50kN-30kN=20kNのせん断力はどこへ行ってしまっているのでしょうか。答えを先に言ってしまうと、20kNのせん断力はX1通りフレームとX3通りフレームへ力が移動しています。床スラブが無い(剛床仮定が成立しない)場合のQ1、Q3にそれぞれ20kNのせん断力が半分ずつ移動していると考えると、
 Q1=Q3=20kN+10kN=30kN
となります。
 また、このせん断力は、どのように力が伝達しているかというと、スラブの面内せん断力としてスラブに力が伝達され、その後X1、X3通りフレームの各柱へせん断力として伝達されていきます。

図3 スラブの面内せん断力